東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)92号 判決
一 請求の原因第一項から第三項までの事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由の有無について判断する。
取消事由第一点につき本願発明の目的が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
原告は、本願発明の電解槽におけるカソードは、各アノードを取囲むようにした梯子状の構造のものであると主張する。
成立に争いのない甲第二号証によれば、本願発明の特許請求の範囲にカソードの構造について各アノードの周囲にその部材が閉じたループ状をなしていると記載されていることが認められる。しかしながら、前記甲第二号証によれば、発明の詳細な説明欄には、「本発明の目的は、小量の電力消費で生産性を高め、電解槽一平方メートルあたりの金属回収率を向上させ、耐火内張にはめこまれた電源接続部の数を数分の一に減じ、電解槽の実効容積の利用を改善し、電解槽の耐用期間を延長し、さらに電解槽の機械操作を簡略化し得るような電解槽を提供することである。この目的は、本発明によれば、ワク状のカソードを有する少くとも一つの電解室を設け、その部材が電解室内の各アノードを取囲むようにした金属好ましくはマグネシウム製造用の電解槽を提供することで解決される」(明細書二頁一七行目から三頁八行目まで)と記載されていることが認められ、また甲第二号証中明細書に添付された図面には縦の部材と横の部材からなる梯子状のカソードが示されていること等よりみれば、本願発明におけるカソードは、ループ状すなわち輪状、環状のものだけでなく、梯子状のものを含めてワク状のものも含むと解釈する余地がある。
しかしながら、本願発明におけるカソードが梯子状のものに限定されると解すべき資料は存在しない。明細書に添付された図面に梯子状のカソードが示されていることは前記のとおりであるが、前記甲第二号証中の発明の詳細な説明欄には、前記図面に示されたカソードについて「発明を説明するため、以下に添付の図面を引用し、本発明による電解槽の好ましい一例をかかげる」と記載されていることからみると、前記図面に示された梯子状の構造のカソードは本願発明におけるカソードの好ましい一具体例として掲げられているに過ぎないことが明らかである。したがつて、本願発明におけるカソードは梯子状のものに限定されるということはできない。
原告が本願発明の効果として主張しているところは、カソードが梯子状の構造を有している場合にはじめていえることが明らかである。したがつて、前述したようにカソードを梯子状の構造にすることを要件としているとは認められない本願発明においては、すべての場合にこれらの効果を奏するとはいえない。
引用例の電解槽における電極は、中央に黒鉛または炭素のアノードをおき、これを鋼製のカソードが筒状に取り巻く構成になつていること、カソードは筒状の内側にあたる一面のみが活性を有することは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例においても、各アノードはループ状のカソードにより取り囲まれており、カソードの電源引出部(陰極支持腕)は各カソードごとに設けられているのではなくて、二つのカソードに一個の電源引出部が設けられることが図示されており、四個のアノードについて二つの電源接続部しか設けられていないことが認められる。そうすると、電源接続部を増加することなく、したがつて、電解槽の堅牢性を損うことなく、電極を増加しうるという技術思想は、引用例に開示されているとみることができる。
そして、引用例におけるカソードが前記のとおり各アノードの周囲を閉じたループ状をなしてとり囲んでいる以上、その構造は本願発明におけるカソードのそれと相違がないということができる。そして、このように本願発明におけるカソードの構成と引用例のカソードの構成の間に差異がないとすると、本願発明のカソードによつてもたらされる効果と引用例のカソードによつてもたらされる効果との間にも実質上の相違はないといわなければならない。
三 取消事由第二点について審決が、本願発明の構成中「各アノードの周囲にその部材を閉じたループ状をなして設けられたカソード」の部分と引用例を対比するに当つて、隔膜の有無の点を対比しなかつたことは、当事者間に争いがない。しかしながら、前記甲第二号証によれば、本願の明細書の特許請求の範囲にはアノードとカソード間に隔膜がないことを要件とする趣旨の記載がないことが認められ、その他本願発明においてアノードとカソード間に隔膜が存在しないことが要件となつていると解すべき資料もない。したがつて、本願発明においては隔膜が存在する場合も含まれ、この場合には引用例との差異はないことになる。そうすると、審決に隔膜の存否を特に相違点として取り上げなかつたことについてなんら違法のかどはない。
四 以上のとおり、本件審決には原告主張の違法のかどはないから、原告の本訴請求は失当として棄却する。